2月11日イベント全文掲載
第一回発言
◎稲葉剛(NPO自立生活サポートセンターもやい理事)■NPO法人「自立生活サポートセンターもやい」理事の稲葉と申します。
派遣村の村長で全国的に有名になってしまった事務局長の湯浅に代わって話しに来ました。もともと湯浅も私も、バブル経済が崩壊した後の1994年頃、東京の新宿や渋谷、池袋などにあふれ出してきた路上生活者の人たちの支援を始めたのが活動のきっかけです。
その後貧困問題が広がってきて、もやいは2001年に設立しました。はじめは路上生活者の方々がアパートに入るときの保証人を提供したり、入った後のさまざまなフォローをしてきたんですが、2003年ごろから、「私も困っています」というメールが届くようになった。それが今で言う「ネットカフェ難民」の始まりだったんですね。その後さまざまな新聞やテレビの報道があって、貧困問題というものが再発見される。
そしてこの間の派遣村の報道の影響もあって、いまは月に100件くらいの飛び込みの相
談があるような状況です。
■年齢的には20代、30代が多いですが、下は10代から上は80代まで、あらゆる年齢の方
が、単身の男性だけでなく、単身女性や大きなお腹を抱えたシングルマザー、3ヶ月の
赤ちゃんを抱えたお母さん、一家3人で路上生活をしているというご家族の方たちなど、
ありとあらゆる人たちが生活に困窮してSOSを求めて私たちのところにやってくるとい
う状況になりつつあります。
この1ヶ月間に相談に来た方たちは、山形、静岡、栃木、群馬、愛知、関東、中部、
東北などさまざまな工場で働いていた人たちが首を切られ、食い詰めて東京に来てホー
ムレス状態になり、私たちのところへ来ています。私たちの相談電話がほとんどパンク
状態で電話がつながらない、しかも所持金が数十円で何日も食べてない状態で、予約す
る余裕などもなく、次から次へ飛び込みで私たちの事務所に相談に来られる。スタッフ
もかなり疲弊してきています。
厚労省の情報では昨年秋以来のとくに派遣切りの影響で、10月から3月までの間に12万
4人が失職すると言われています。業界団体の試算だともっと多くて、製造業だけで40
万人以上が失職すると言われています。今年の3月には2009年問題ということでさらに
多くの人たちが首を切られ、仕事と住まいを失うことになるのではないかと、今は非常
に危惧しているところです。
■これだけ状況がひどくなってくると、もともとの日本的な経営が美しく見えてきて、
小沢さんなどは、日本的雇用はセーフティネットなんだなどと言い出すのですけれども、
私たちが気をつけなくてはいけないのは、元の社会に戻ればいいのかというと、そうで
はない、ということです。これまで派遣法がいろいろな業種に拡大してきたということ
があって、派遣労働者の人たちが雇用の調整弁を担わされてきました。ただ私たちが十
数年路上の人たちの支援を続けてきた経験からいうと、もともと調整弁にされてきた人
たちはいるわけです。それは山谷や釜ヶ崎などの寄せ場の、建築現場などで働いてきた
日雇い労働者の人たち、外国人労働者の人たちです。あるいは、女性や障がいのある方
たち。こうした人たちはもともと貧困だった。けれども2006年頃まで日本のなかでは貧
困問題は完全に忘れ去られてきました。それはなぜかというと、彼らは雇用調整弁であ
ることが当たり前のように差別されてきたからだと思います。それがいま急速に拡大し
て、社会の土台を脅かすようになってきている。ここをまず踏まえる必要があるんじゃ
ないかと思います。ですから私たちはセーフティネットを整備して欲しいと言っていま
すが、それはすべての人たちを包み込むものでなければならないと考えています。
■ではどのようなセーフティネットをつくればいいのか。3層のセーフティネットを書
きました。いま、使えるセーフティネットがほとんどないので、みな生活保護に殺到し
ていて、でも窓口では働けそうな人は追い返すといった争いがあちこちに起きています。
もちろん生活保護を制度にのっとった形で機能させることも重要ですが、そこに到る前
の、1層目、2層目のセーフティネットを充実させることも重要だと思っています。
一つは雇用保険です。この間、雇用保険が受けられる期間をどんどん縮小してきて、む
しろ国の雇用保険財政はあまっているという状況になっています。自発的に退職した人
たちは受給するまでに3ヶ月かかります。けれども私たちのところに相談に来る人たち
はたとえば、パチンコ店で毎日殴られ、パワハラを受けて、お前なんかやめろと言われ
て辞めざるを得ないところに追い込まれていっている。「自発的」と言っても事実上は
首を切られている人たちもたくさんいて、そういう人たちが、3ヶ月間制度を使えない
間に困窮してしまうという状況を整理しておかなければいけないと思います。職業訓練
を受けながら制度を使っていくという仕組みを作っていく必要があると思います。非正
規の人たちも受けられる仕組みを作る必要があります。
■二つ目として私は住宅の問題があると思います。ここにきてようやく政府は雇用促進
住宅を開け始めましたが、私たちはこの間ずっと、使っていない住宅があるじゃないか、
ホームレスの人たちやネットカフェ難民にそこを活用させてくれと訴えてきた。それを
厚労省は無視してきた。やっとここにきて出してきましたがやはり数が少ない。首都圏
の住宅はすぐに埋まってしまって地方なら空いてるよというわけですが、地方は仕事が
ないから住みたがらないというミスマッチが生まれています。もう一度公的な住宅制度
をセーフティネットの一環として位置づけて安い住宅を行き渡らせる。たとえば東京の
都営住宅なども石原都政になってから一軒も増えていません。縮小していくことを各地
方自治体はやってきています。また60歳以上の方、障がいを持っている方しか申し込め
ません。若年ワーキングプアは排除されています。そういう人たちにも公的な住宅をい
きわたらせることによって、セーフティネットになる。雇用保険と住宅があって、最後
に生活保護がある、という三層のセーフティネットがいま求められていると思っていま
す。
◎平田仁子(NPO気候ネットワーク東京事務所長)
■みなさんこんにちは。今日は時間をいただいてありがとうございます。私は地球温暖
化、気候変動の問題について話をさせていただきます。最近温暖化に関しては「温暖化
はウソだ」とか「エイズや貧困などのさまざまな問題があるのに世の中温暖化温暖化と
言い過ぎる」「そんな対策は金がかかって効果はなさそうだ」というように、さまざま
なレベルで懐疑的な議論が出ています。そういった本が私たちの『よくわかる地球温暖
化問題』という本よりも圧倒的に売れているというトレンドがあります。こういった議
論は世界中で起こっていることであって、日本では遅咲きにその波がきています。
今日はその議論には入りませんが、圧倒的なコンセンサスは、いま地球の温暖化は起こっ
ており、そしてそれは人間の今の経済活動が原因であることは疑いがないということで
ありIPCCが確実な資料を出しています。雑音はありますが、いま人類がどう法整備して
いくかということが改めて試されている、そんな時期です。そういう懐疑本が出てきて
いることの一面は、この問題が大変大きな社会問題になっていることの裏返しでもある
と思います。
■昨年のサミットでは第一の議題が温暖化ということになりました。国際政治問題に引
き上げられました。しかし京都議定書ができてから10年以上経ちますが、私が雑誌に投
稿したものをお配りしていますが、そこにある図1とか図2を見ると二酸化炭素の排出量
は現在も過去十年も含めてずっと右肩アガリになっています。世界全体では最近伸びが
いっそう速くなっているという状況で、私たちは騒いでいるわりには、CO2を出し続け
るという意味での地球環境の破壊は進んでいるというのが現状です。いったい何をやっ
ているのか、ということでもあります。
一昨年、気候変動にかかわる政府間パネルで合意した科学的な知見によれば、途上国
でとりわけひどく起こっている洪水や旱魃などさまざまな被害は、これから100年の気
温上昇が今まで以上に早いスピードで大規模に起こるということで、たとえ環境にやさ
しい社会を描いたとしても相当の気温上昇が予想されるということです。温暖化はもは
や防止できるレベルではなくて、上昇幅をどれだけ押さえられるかという話になってい
ます。
■左の表1の上あたり、産業革命からあがっていく気温が2度から2.4度とありますが、
これ以上上昇してはいけない、あと戻りできない上昇幅は2度といわれているんですけ
れども、その2度を実現するためには50〜80%CO2を削減しなければいけないですし、先
進国は2050年には最大95%マイナス、つまりほとんどゼロにすることが求められてるわ
けです。私たちがそれをやるかやらないか、取り返しのつかない多くの人たちの死を招
く気候変動を受け入れていくのか、あるいは、本当に力を集めて2度に押さえられるの
かがいま試されているということになります。それは随分先のことではなくて、2050年
に9割減らすためには、今から相当減らさなくてはいけない、今から社会変革をしてい
かなくてはいけない、これから10年が最後のタイムリミットと考えられています。なぜ
なら80%までに持っていくためには2015年までに排出量を頭打ちして削減にもっていか
なければならないのです。
京都議定書で先進国に課せられているのは5%の削減です。しかもアメリカが抜けて
いる。2020年くらいまの次の目標が今年末のコペンハーゲン会議で決着されることになっ
ています。京都議定書は第一歩を作ったという点では意味がありましたが、温暖化をと
めるには全然足りない。今度のコペンハーゲンでの合意は、ここまでやらなければだめ
と科学が示すところまで合意をもっていかなければいけない。きわめて難しい、しかし
私たちの未来がかかった重要な決定をしなければなりません。
■私たち日本のNGOが気にしているのは、日本の対応がまったくなっていないというこ
とです。2007年の排出量は史上最高で、-6%が目標ですが、現実は+8.7%でその差は15
%。どんどん目標から遠ざかっています。
いちばんの原因は、日本の排出量の8割は企業とくに大規模な工場や発電所が占めて
います。経済活動を規制するな、とずっと自主的な取り組みにまかされてきました。肝
心の排出者にはなんら規制をできず、一方でクールビズとかウォームビズとか呼びかけ
だけをおこなっているというのが現状です。呼びかけ自体が悪いわけではないですが、
現実に減っていないのは実績の数字が物語っています。
■こうした10年を過ごしてきたことは大問題で、同じ10年を過ごすわけにはいきません。
今日青い熊の絵のチラシを配りましたが、日本として中長期のビジョンを持つことと、
すでにわかっている、削減をするための効果的な手段をとる、という2本を柱に掲げて
新しいルールをつくろうと、エコがブームになっているけれども個人の意識だけでは限
界があって社会の仕組みを変えていく必要があるんだ、という世論を形成するキャンペー
ンをスタートしたところです。私たちも10年活動していながら結果が出せなかったとい
うことでは、NGOコミュニティ、市民社会も弱いし、専門家が言っているだけではだめ
という反省点もあって、より広くこのキャンペーンを展開したいと思っています。
このキャンペーンの目指すところは法律をつくるという先のことなので、今の政治家
は責任をとらないということになりますが、将来の目標に向かって毎年線を引いて、そ
の時々の政権にどこまでやるかという約束をしてもらう、そういう意味もあり、政治が
きちんと対応することを求めていきます。温暖化問題が解決できなかったのは政治が対
応できなかったからですし、問題の根幹はCO2を出すこと自体よりも、今の経済社会自
体を問い直しドラスティックな対応が求められているということです。そのためには政
治の対応が必要です、選挙も控えていますし、国際合意というタイミングを機に大きな
うねりを作りたいと思っています。
◎中村圭子(NPOピース・デポ事務局長)
■みなさんこんにちは。ただいまご紹介に預かりましたNPO法人ピース・デポの中村と
申します。こう話を始めるとたいてい半分くらいの方が、「あ、あの世界一周船で行っ
ているところね」と言うのですが、そこではありません(笑)。
今回話をするようにと言われた「非核と平和」というテーマはとても大きなものなの
で、10分では本当にさわりしかお話できませんが、そのなかでも私が中心にやっている
核軍縮、核兵器をめぐる状況について、そして1月20日に発足したオバマ政権はまだ始
まったばかりで具体的に評価できるものは少ないのですが、そこに私たちは何を期待し
て働きかけていくことができるかを考えてみたいと思います。
■核に関する2万5000という数字。これが何の数字かわかりますか。世界にある核弾頭
の総数と言われているんです。2万5千という数字をただ見ると「ふうん、そうか」とい
う感じで、なんとなく核問題って常に私たちの生活とかけ離れた感じがあるかなと思う
んですね。しかし実は今の私たちにとって、核兵器という問題、原発を含め核という問
題にどう向き合うのかは、貧困問題や環境問題とものすごく密接につながっている。広
島や長崎というところから1日たりとも私たちの生活と切り離されたことがない問題で
あると思います。2万5000発。「オーバーキル」という言葉がありますが、地球上の生
きとし生けるものを一度すべて殺してもまだ殺し足りない。それだけの核兵器を冷戦が
終わって十数年経っている今も、私たちの世界は引き続き持っているのです。確かに7
万発あったと言われているピーク時と比べて数は減ってきています。それは間違いない。
そして今の世界各国の核保有国の指導者たちも口をそろえて「いらないものは減らして
いく」と言います。お金ももったいないし、無駄なものは減らしていくと。しかしその
一方で核兵器がなければ私たちの国の安全は守れないんだという、いわば冷戦的思考、
メンタリティーの部分では、まだまだそこから一歩踏み出すことができないんです。
■ブッシュは8年間、核兵器には特別な役割があると言い続けてきました。核兵器にし
かできない、他の通常兵器がどれほど強力でも、これにはとって代わることができない
役割があると。こうして、9・11以降どんどんブッシュのいう対テロ戦争に世界は巻き
込まれていきました。いま、アメリカがどういう状況にあるのかと言うと、最大の核保
有国であるアメリカがもっとも核に怯える国になっているんです。
オバマのアジェンダがホワイトハウスのホームページに載っています。アメリカにとっ
て最大の脅威は核兵器を使ったテロリズムである、そしてもう一つは、かつてブッシュ
はならず者国家と呼びましたけれども、北朝鮮とかイランといった国々に核兵器が広がっ
ていくことが脅威であると。アメリカ自身が核ではまったくもって自分たちの安全を守
れないということに、やっと少しずつ気付き始めたというところに世界が動いているん
です。
■その大きなきっかけになったのが、2007年1月の『ウォール・ストリート・ジャーナ
ル』にキッシンジャー、シュルツ、ナン、そしてペイという冷戦時代、まさにアメリカ
の核政策の中枢にいた4人の元政府高官が、「核兵器のない世界」というタイトルの論
説を発表したんです。これは大きな衝撃をもって迎えられたのですが、彼らは今のテロ
を筆頭とする21世紀の脅威に対して、核兵器というのは役に立たない、と。私たちの国
の安全を守るのは決して核兵器ではないので、アメリカはそれを率先して減らしていく
べきだ、世界のリーダーたるべきだ、と訴えたわけなんです。決してこの4人が心を入
れ替えていい人になったという話ではまったくないです。しかし、それをきっかけに、
やっぱり核兵器がないほうがある世界よりも安全なんだということがどんどん声に出し
て言われるようになってきました。たとえば映画『ターミネーター』で有名なカリフォ
ルニア知事のアーノルド・シュワルツネガーのような人々がいきなり「核兵器廃絶は重
要だ」とか言い始めています。いままで私たちのように、核兵器のない世界が当然私た
ちがめざすべきものだというふうに掲げていると、長い間冷や飯を食わされるといいま
すか、理想主義に過ぎないとか、現実のパワーバランス、国際政治をちゃんと勉強しろ
というようなことまで言われてきました。しかしやっと時代が追いついてきました。核
兵器では安全は守れないという当たり前の常識が、やっと世界の常識に近づいてきたと
いうところなんです。
■で、オバマ大統領。この人もキャンペーンの途中から、自分の発言にキッシンジャー
たちの影響があるということを繰り返し言ってきました。おそらくこれほど大統領の選
挙キャンペーンのなかで核軍縮、不拡散の具体的内容まで含めて公約のひとつに掲げて
選挙を戦った人は少なかっただろうと思います。多分ジョン・F・ケネディもそうだっ
たんじゃないかという話もありますが。非常にはっきりと協調的外交、対話を進めると
いうこととあわせて核兵器のない世界というのがアメリカの進むべきゴールである、と
言い続けてきました。こうした流れのなかで、ゼロを目指すということがとても言い易
くなってきました。私たちはこの国際的な機運を活用することがとても重要だと思いま
す。国の政策立案者たちが言っていることはさまざまな要因によって時代とともに変化
をしてしまいます。だから私たち市民の役割が重要になる。私たち市民、とくに日本人
が、なぜ核兵器を廃絶しなくてはいけないのか、その原点、根っこをしっかり見直して
いかなければいけないのではないかと思います。
■ただ、日本の課題に引き寄せて考えると、当然のごとく核の傘のもとにある日本を見
直していく時代であるということは間違いのないことです。核保有国になぜ核兵器を持
つのですかと聞くと、当然自分の国の安全のためというのが第一の答えです。もう一つ
の答えが、同盟国安全のため、同盟国の求めに応じている、ということを必ずいいます。
今回オバマがこういった形で核軍縮を劇的におこなっていくということを表明すると、
アメリカのなかでどういう声が出てくるかわかりますか。「日本が核武装したらどうす
るんだ」という声が慌てて出てくるんです。アメリカはいま日本に核の傘を与えている
ことによって日本の核武装を防いでいる。日本に限らず同盟国に対してアメリカが核を
もっていることの意味が大きいんだ、ということをアメリカ政府は繰り返し言ってきて
います。こうしたことにたいして、私たち日本の市民がはっきりとものを言っていくこ
とがさらに重要ではないかと思います。そして核に頼らない、ただ単に核兵器がなくて
も安全だというとたくさんの反論が来ますので、私たちピース・デポは代替案として北
東アジアに非核兵器地帯をつくるという具体的な案を10年くらい前から提言しています。
■世界の軍事費の総額は1年間119兆円です。このなかでアメリカの核関連費が5兆円で
す。お正月からニュースを見ていて思うのですが、日本のなかでは、貧困の問題を軍事
費の問題と関連して議論されることがなかなかないように思うんですね。聖域で手をつ
けてはいけないことのように。しかし核の問題とそして今日は話せませんでしたが、環
境の名のもとに原発がつくられる核拡散の危機の時代ですから、そのことも合わせて皆
さんと一緒に考えていきたいと思います。
◎稲村和美(みどりの未来共同代表)
■稲村です。よろしくお願いします。3人の方からタイムリーなわかりやすい話をして
いただきました。ありがとうございました。私たちはみどりの政治ということで取り組
んで来ましたが、奇しくも中村さんがおっしゃったように、私たちも「理想主義的」だ
と言われてきました。平田さんも「温暖化の問題は目の前の問題じゃないじゃないか」
と批判されるんだと。私たちもまったく同じ思いをしてきましたし、今もしています。
でも実はそれらはほったらかしにしておいていい問題じゃない、ということ。今まさに
転換期が訪れようとしているんじゃないかという機運や空気が少し共有される状況、あ
るいは、多くの人たちが転換を求めている空気が出てきているなと感じています。そう
いうことをわかる形で発信していくことが、私たちがやっていかなければいけない重要
なことだと感じながら3人の話を聞きました。
■これまではとにかく成長することがいいことだと言われてきました。小泉元首相は「
改革なくして成長なし」と言いました。とにかく成長を遂げるためなら痛みも耐えよう、
と政治は国民に言ってきたわけです。しかしみどりという政治団体を作ったときから私
たちが言ってきたことは、でも「ちょっと待てよ」、「成長さえしていたらホンマにえ
えんか」ということです。いま成長そのものが崩壊をして、100年に一度の危機だ、と
いわれる状況になっています。大変厳しい問題が起こっている。けれども稲葉さんがおっ
しゃったように、元に戻ればいいのか、元の姿が私たちが求めてきた豊な社会だったん
ですか、と問い直すことができる分岐点に私たちは立っているんだと思うんですね。
■みどりの政治というのは経済の質を問うていく。日本の経済の産業の中味は建設、土
木で、日本の環境をめためたに破壊してきました。武器をつくるという点ではアメリカ
よりマシだったかもしれません。けれどもこれから日本もアメリカの真似は得意ですか
らグリーンニューディールと言い出す。これも先ほど話しに出ましたが、日本では反対
運動がきつくて作られへんけど、海外では夢の技術だと高いお金を出して受け入れてく
れるところがたくさんあると、そこへめがけて進出しようとしている企業があるわけで
すよね。今日私たちがこの3名の方々にパネリストとしてお話をお願いしたのは、この
三つの問題が深くつながっているという問題意識があってのことです。
この国に住む私たちはいったいこれから先、何をなりわいにして飯を食っていくのか。
それを問うべき時代が来ていると思います。いままさに雇用が失われているという大問
題が目の前に発生しています。これはもちろんいま緊急に対応しなければならない。稲
葉さんが具体的におっしゃったように、3層のセーフティネットを機能させていく。今
の制度でできるはずのこともできていませんからそれをしっかりさせていく。これはも
ちろん政治の役割です。でも、いま失われたこの雇用はどのような雇用をもって埋めて
いくのか。新しい雇用はどこに求めていけばいいのか。これまでの仕事に戻れたらそれ
でいいんですか、と私たちは問わなければならないと思っています。
MAKE the RULE キャンペーンも私たちも一緒に取り組み始めていますが、たとえば、自
然エネルギーを導入することでそこに雇用を生み出していった先輩の国々がすでにある。
また、いまの食の問題、安全の問題あがあるなかで、私たちの国の一次産業が環境も奪
い、安全も奪い、自給率やリスク管理の問題もある。そういうところを私たちはつなげ
て考えていかなければならない。しかも、もうすでに今、この年、2009年が分かれ目に
さしかかっている。今年が勝負なんです。
すべての問題が同時に起こっているということを共通の認識にして、後半の話につな
げていきたいと思います。
会場からの問い合わせ
◎平田仁子
■「温暖化懐疑論」の批判派には、社会トレンドを批判するようなものもありますし、
アプローチ自体がおかしいとか、いろいろなレベルでの批判があります。科学に関して
はこの論文がわかりやすいとか、書籍なども別途お知らせしたいと思います。新しいと
ころでは、科学に関しては『日経エコロジー』がかなり頑張って反論しています。
私たちNGOがどう受け止めているかということですが、地球の大気が実験室で再現で
きないかぎり、100%これが正しいと言えることは永遠にないと言われています。しか
し圧倒的に信頼できる情報はIPCCのデータだと思っています。個々の議論が正当である
可能性はゼロではないですが、その重みが一人の学者の意見であったり論文であったり
というものと、それを含めて全体を評価したIPCCの評価をどう受け止めるのかという私
たちの判断があり、IPCCの科学を信用して対応している状況です。科学懐疑論をひとつ
ひとつ否定するということはしていませんけれども、そのなかの情報を客観的
にみて判断してIPCCの科学を前提にしています。
■いま温暖化対策で原子力回帰はものすごいですね。一時反原発の流れにあったヨーロッ
パでもそういう動きがありますし、日本も含め温暖化の名のもとに途上国への原発輸出
があります。オバマ政権もマケインほどではないにしても安全に使っていくという方向
です。団体として原子力を使うことには明確に反対をしています。CO2さえ減ればいい
という立場ではありません。これからの将来に経済的、環境面、そしてリスク、という
ような負担を残すという選択肢は温暖化対策の名の下でも絶対にとってはいけないと考
えていますので、そうではない解決策を考えて提案しています。日本では40年、これで
も長すぎると思いますが、どんどん廃炉にしてゼロにしていきながら、足りない部分に
ついては自然エネルギーでまかない、それでも足りない分は私たちの需要を減らして行
こうと選択肢を提示し、それはきっとできるんだということを常に発信していっていま
す。
■MAKE the RULEキャンペーンについてですが、昨年の今の四半期と今年の第2四半期で
はこの経済の縮小で8%くらいCO2が減っているそうです。これまでぎゃんぎゃん言って
きたのに全然減らなかった、経済が縮小すればこんなに簡単に減るんだ、と思いました、
しかしよかったー、とは思いません。二つの危惧があるからです。一つには、もう減っ
たので京都議定書それほどがんばらなくても大丈夫かもしれない、炭素税とか排出権取
引とか厳しいこといわなくてもと社会的機運を失うというリスクがあります。もう一つ
は、もとの社会に戻ればいいのか、という話がありましたが、自動車産業を支えようと
か、そういうことが結局もとのエネルギーをたくさん出す社会に戻ることによって潤う
社会になっていくことになる。グリーンニューディールという言葉もありますが、新し
い社会をつくるきっかけとして捉えるのか、非常にきわどい、しかし重要な岐路にある
と思っていて、あまり楽観的には受け止めていません。この機会を逃したら次はないか
もしれないというくらい身を引き締めて取り組んでいるところです。
■今まで経済産業省の人と話をするといつも、じゃあどうするんですか、鉄は、セメン
トは、自動車は、といわれてきました。そこを守っていくことが経産省の意識だった。
それが守りきれない状況になったいま、今の日本の産業を支えるのは何か、そして環境
に負担をかけない産業は何なのかを考えるとてもいい機会ではあると思っています。
どう具体的にやるかについては、CO2に価格をつけるのが基本です。CO2は環境に悪い
物質ですからそれを出すことにはお金をかける。これは炭素税がひとつのいい方向で、
単に増税ではなく社会保障関係の負担を下げることとの中立型も考えられます。CO2を
出さないようにがんばる人は得をする、たくさん出す人には負担をかける。そういう社
会システムをつくるという方法で経済の構造自体を変えることを根幹にしています。各
政党の人とは話し合っています。でも残念ながら選挙があるので、政策のことはあまり
考えてもらえません。「ふんふん」という感じです。政治的機運をつくりたいと思って
「MAKE the RULEキャンペーン」をやっているのですが、肝心の政治の場は本当にこの
体たらくです。でもあきらめずにやりたいと思っています。
◎稲葉剛
■生活保護の問題については水際作戦が日常的に行われています。地方で比較的多いの
は、住所のない人はほぼ追い返すということをやっています。有名なのは北九州で、以
前は住所がない人が相談に来ると、高齢者にも「まず住所を作ってから来てください」
と追い返していた。路上生活者が生活保護を受けるためには救急車に運ばれて入院する
しかなかった時期がありました。 最近、もやいが問題にしたのは、静岡県の伊東の駅
の構内で、自殺を図ろうとして包丁をもっていた60代の男性が警察官に保護されたとい
う事件があります。警察官には福祉事務所に行って相談するように言われて福祉事務所
に行った。
その方は以前横浜の会社の寮にいたことがあって、そこに住民票があるけれども、そこ
には住まいはないわけです。ところが伊東市の職員は、住民票のあるところでしか生活
保護は受けられないという虚偽の説明をした。住所がない人は本来ならば「現在地主義」
といってその場所で生活保護を開始しなくてはいけないんです。けれどもその職員は横
浜でないと受けられないという説明をして、横浜までではなくて隣の熱海市までの交通
費を貸した。その人は仕方なく熱海市まで行ったら、熱海市は隣の小田原までの交通費
を貸した。回数券があるんです。あらかじめ用意してある。それで、「このまま市役所
を渡り歩くんですか」と聞いたら「そうなりますね」と言われ、もう金曜の夕方だった
ので、このままでは横浜までたどり着けないし、土日になってしまって野宿せざるを得
ない。
その人はどうしようかと思い、新宿まで来て、新宿の駅の構内で派遣村の事務局に電話
をして、もやいのスタッフが新宿駅にかけつけて、そこで交通費を払って、都内で生活
保護の申請をしました。熱海市と伊東市には抗議をしましたが事実関係を認めていませ
ん。
こういう隣の駅までの切符を渡して事実上追い返すということが地方では日常的に行わ
れています。
■また大都市でよくおこなわれるのは、高齢者は受け付けるが、稼働年齢の人は働きな
さいと追い返すということも日常的に行われています。そういった人たちが私たちのと
ころに相談にきて、あらかじめ生活保護の申請書を書いて(フォームは決まっていませ
ん)スタッフが付き添って相談に行くと100%申請は通る。本来生活保護の対象になっ
ているのに、そういう人たちを窓口では追い返しているわけです。最近のパターンでは、
都内の各宿泊所とか中間的施設が満床になってきていて入れないひとが増えています。
それを口実にして住所がないからと申請を受けないということもよく行われています。
それに関しては私たちも独自にゲストハウスなどを開拓したり、最悪の場合ネットカフェ
でも申請できるんですが、役所の方はなかなかやりたがりません。でもとにかく路上生
活を強いることは止めなさい、と言っています。
■生活保護に関しては私たちのところに相談が殺到していて、ぜひ各地でそういう窓口
を作って欲しいという呼びかけをしています。今月18日(水)には生活保護申請支援ボ
ランティア要請講座というものもやりますので、来られるかたはぜひ来てください。
いま生活保護しかないわけですね。ハローワークで貸付金をしたり、他の制度も動き
出してはいますが、それらはある程度ゆとりのある人しか受けられません。所持金が数
十円しかない人はもといた会社に戻ることもできませんから、貸付制度を受けるはんこ
をもらうこともできません。いま困っている人が使える制度は生活保護しかありません。
ぜひそういう相談窓口を作ってもらいたい。
■景気回復のためにはどうするか、という話ですが、この点はぜひみなさんと議論した
いと思っているところです。先ほど稲村さんが新しい雇用とおっしゃいましたがそれを
どう作ってくのかが問われるところだと思います。私は日常的にホームレスの人たち、
ほとんどが50代、60代の日雇いで働いてきた人たちと話す機会が多いですが、彼らには
まずオリンピック来て欲しいという人たちが多いです。1964年の東京オリンピックの頃
に東京に来た人が多いですから。彼らは生活保護が受けたいんじゃなくて、仕事がした
い。その人たちにどういう言葉を言っていけるのかというのが、みどりの思考を鍛えて
いく上で重要なポイントだと思います。
ワークシェアの問題については、まず同一賃金同一労働が基本です。さらに最低賃金
をあげる。非正規の人も雇用保険の網にかかる。さまざまな差別を撤廃することがまず
必要です。その上で、ワークシェア等の形でやっていくことは将来的にいいのではない
かと思っています。それから住宅費を下げる、食料品の消費税を下げるとか教育費をさ
げる。そういう支出の部分を下げることで賃金が上がらなくても生活レベルは変わらな
いという方法もあるのではないかと思っています。
◎中村圭子
■核軍縮への障壁に関していえば、実はこれから先日本政府が足を引っ張るのではない
かということを非常に懸念しているところです。私は10年くらいいわゆるロビー活動を
やっています。政府の直接の担当は外務省軍備管理軍縮課または不拡散室というところ
で、歴代の担当者と話をしてきました。そうすると、本当にストレスが溜まるというか
会話が成立たないというか、血圧があがるのを覚悟していかなくてはならないんです。
もう少し具体的にいいますと、私も仕事柄、国連などの核問題に関する国際会議によく
出席するのですが、日本政府の代表が枕言葉のようにいうせりふがあるんです。それは
「唯一の被爆国として」という言葉です。「唯一の」という言葉自体私たちは賛成して
いませんからその議論もありますが、日本が被爆国であるということをこれだけ繰り返
し言い続け、日本が核軍縮、核不拡散ということにプライオリティーを置いているとい
うことを繰り返し言っている。秋の国連のときにも「『はだしのゲン』を英訳して30冊
持っていきました」というようなことをすごく自慢げに言っていました。私は海外のNG
Oなどで働いている若い人たちから、純粋な疑問として聞かれるんです。日本は被爆国
だということを言っているのに、どうしてアメリカの核の傘を容認するようなことを平
気でいうのか、と。私自身も生まれた時からアメリカの核の傘があるらしいというなか
にいて、多くの人たちはこのことを改めて問うチャンスがあまりないのかなと思います
が、考えれば考えるほど、本当におかしい根本的な問題であるわけです。日本政府の一
番醜い姿が核核問題の二枚舌にあらわれているのじゃないかと思っています。
■こうしたアメリカの核の傘の下にいると具体的にどういうことが起こるのか。たとえ
ば、アメリカが核軍縮に向かうときに日本が反対する可能性もありますが、もっと具体
的にはいまこの世の中に核兵器を包括的に取り締まるしまる全面的禁止条約はないんで
すね。大量破壊兵器には三つあって、核、化学兵器、それから生物兵器です。化学兵器
と生物兵器については、問題点はあるにしても全面的な禁止条約がある。しかし核兵器
に関してはそれがないんです。それを作っていこう、条約締結は長く時間がかかるもの
ですから、せめてそのテーブルにつこうと言っているのですが、日本政府は時期尚早だ
と乗らないんです。秋の国連総会で、マレーシアなど非同盟諸国が中心となって核兵器
禁止条約の交渉を開始していこうという国連決議を出したんですが、日本は97年以降過
去10年ずっと棄権票を投じているんです。被爆国であると言っている日本がそれとまっ
たく逆行するようなことを兵器でやる、実際の行動では数限りなくそういうことがあり
ます。なんと言っても日本政府の中にレトリックではなく本当に被爆国であるというこ
との道義的責任がどの程度理解されているのか。もうひとつ例をあげると、2月13日か
らワシントンで開かれる日豪核問題委員会の会合が開かれます。そこに、市民からの要
求を受けて、被爆者の話を聞くセッションを設けることになったんですが、政府側は「
それで十分だろう」という態度がみえみえなんですね。外交政策を担っているトップか
らまず教育をしていかなければいけないと思います。軍縮教育というと、子どもたちに
ヒロシマ、ナガサキをどう教えるかという意味に取られやすいのですが、もう少し広義
で考えるとそれは政府の役人や国会議員、市会議員に対するものであり、そしてすべて
の市民に対するものであると思います。教育という言い方がいいか悪いかは別として、
こうしたことをどうやって考えていく場を市民でつくっていくかを、外務省が筆頭になっ
てやらなければいけない課題なんです。
■2番目の在日米軍の話ですが、クリントンがもうすぐ来日しますね。私に今わかって
いる範囲では、おそらく在日米軍の事に関して、オバマが何かをドラスティックに変え
ようと思っているとは思えません。ただ、もう少し具体的には今後みていかなければい
けないと思っているのですが。オバマはブッシュの一国主義に飽き飽きしている国民、
世界中の市民に対して国際協調の重要性をずっと言っているわけですね。オバマの一つ
の売りでもある。しかし一方で、オバマのアジェンダをよく読んでいくと、同盟国への
負担をもっと求めるということを繰り返し言ってます。我々の共通の脅威、テロリスト
であったり不穏分子国家であったり、に対して共同で立ち向かっていくためには、同盟
国ももっと注意を払えと言っているんです。そのあたりの負担の分担についてオバマが
具体的に何を言ってくるかは注意しなければいけないと点だと思っています。
◎稲村和美
■会場のみなさんからの質問、パネリストの方の話を聞いて印象に残ったのは、大きな
転換点とは言っても我々はまだまだ多数派ではない、ということです。どう呼びかけて
いけばこの輪を広げていけるのかが、今日ここに集まっているみなさんの共通の悩みで
あり、議論したい点だなと感じました。温暖化にたいしても懐疑論が根強い、雇用にか
んしても今は景気回復が最優先という話になる、軍事についてもたくさんの反論が出て
くる。
私自身は、これは世界中のみどりの党がベースとしてもっているものですが、やはり
予防原則が重要だと思います。私もいま地方で議員をしています。遺伝子組み換えは安
全なのか。このごみ処理施設は、土壌汚染は大丈夫なのか。すべて科学論争なんです。
私はこの科学論争を神学論争と言い換えています。永遠に終わらない。そしてそれを繰
り返している間に問題は着々とより悪いほうへ進んでいきます。政治という場では、結
論を出していかなければなりません。そのときに、科学論争をするのではなく、100%
安全だと言えない限り、私たちはより慎重な対応を選び取るべきなんだと思います。そ
れは正しい、正しくないではない。温暖化は進んでいないかもしれない。石油はなくな
らないかもしれない。たとえその可能性があるにしても、私たちは石油に依存しエネル
ギーを使いに使って成長を求めていく社会が私たちにとってよい社会なのか。もしかし
たら否定できないリスクの大きさに比べてどれだけの幸せをもたらしてくれるのか。そ
こを冷静に見れば、多くの人とその結論を共有できると信じてみどりの活動を続けてい
ます。
科学論争の上でのリスクよりも、私たちがもう少し暮らし方を変えること、それってそ
んなに悪いことじゃないよ。万が一のリスクを排除し、私たち自身がハッピーになれる、
そういう選択肢を選ばない手はないよ、って思います。
■ただし、土方で一生懸命働いてきたひと、焼け野原で働いてきた人、「俺ら働きたい
んやで」、「生活保護なんか受けたくないんやで」という人たちに私たちはなんて声を
かけるのか。個人的なことですが、私の父親が昭和一けた生まれで芋のつるを食べて育っ
たという話を聞かされて育ちました。その世代の人たちに感謝の気持ちを忘れてはいけ
ない、と思っています。彼らは私たちが貧しい、ひもじい思いをしないようにと思って
がんばってくれた。だからもし豊になり過ぎていることで私たちが不幸になっていると
したら、それを変えて行こうということには、多分怒ったりがっかりしたりしないと思
うんです。だから高度成長が悪だと言うのではなくて、その気持ちを引き継いで次の世
代を考えて、本当の豊かさを求めてがんばりたいと思います。
政策的には、成長型産業のソフトランディングを図るということと、新しくみどり型の
産業を離陸させていくということを同時並行にやっていく。少なくとも車は低公害車に
切り替えていく。車のCO2排出を減らしていく、よりましな方向へインセンティブが働
くような政策が必要だと思います。そして建設に関しては一部は林業へ振り替えていく。
自分のホームが兵庫で、森林もあるので、そういうチャレンジを提案しようと思ってい
ます。もう一つは、回復型の公共事業、電柱を地中化していくとか、一度コンクリート
で固めてしまったものをもう一度自然の姿に戻していくとか。同じ建設業でも、誰も通
らん道路をつくるのではなく、次世代にあったように、中味を厳しく問うていかなけれ
ばいけないと思っています。それらと平行して、みどり型の新産業、自然エネルギー産
業であったり、農業や福祉を充実していく。そういったところにどれだけの具体的な仕
組みを提案、実現させていけるのかが重要だと思っています。
■また働ける年齢層にセーフティネットがないんだという話がありました。私は「ロス
トジェネレーション」のはしりの年齢なんですけど(ちょっとさばよんだかな)、本当
なら様々な人に出会い、多くのことを経験する、もっとも旬な年齢です。でもそういう
機会を奪われるということが現実に発生しています。その人たちにどれだけの人脈があ
りますか、どれだけの経験、技量が身についていますかと問われる。そういことがその
人たちの努力不足として言われる。これまでは若い世代は企業が守りました。ですから
国は高齢者や障がい者など、いわゆる社会的弱者と言われる人たちだけを、不十分です
けれども守ってきたことになってました。この企業型の福祉はあきらかに崩壊していま
す。この現実をふまえた上で、私たちは、持続可能な新しい社会保障制度を提案してい
かなえればいけない時だと思います。みどりのマニフェストではすでに年金の一元化と
いうドラスティックな提案を掲げていますが、そこをもう少し具体的に発信していかな
ければいけないと思っています。
■最後に、私のキーワードとして、「『市民』にしか変えられない」をあげたいと思い
ます。これまで私も「市民派」と名乗ってきましたが、保守系でもなんでも「市民」だ
と言われています。でも一定の利害、しがらみをもっている人でも、独立した個人とい
うものを必ずもっている。一人の人間のなかで多様な側面がある。そのどの側面を見て
一票を投じるのか、ということです。私たちが企業のあり方、産業のあり方、自分が本
当に安心し、人をあやめたり環境を壊したりしないでご飯を食べていく。そのためには、
今の社会関係から一歩離れたところで一票を投じるしかないんだと思います。企業人と
してはできない、でも一有権者として投票するという行為で変えていくチャンスはある。
むしろそのやり方でしか変えようがないんじゃないかと思っています。そういうことを
新しい政治のなかで強く訴えたいと思います。
締めの言葉
◎稲村和美
それでは最後に、私たちがめざすみどりの党について、現場で活動されているお三方に、
どう思われているかお話いただきたいと思います。NGOの型は超党派性が基本だと思い
ます。それはそれとして、コメント、エール、叱咤激励、意見・要望を一言ずついただ
ければありがたいと思います。
◎稲葉剛
■あえて乱暴なことを申しますが、今日こういうNGOとかみどりの会合で話をするんだ
ということをネットカフェ難民経験者の若者に話したら、「どうせワーキングプアの若
者は農業や林業に行けっていう話なんでしょ。俺たちそういうとこに行きたくないん
だ」って言うんですね。さっきの日雇い労働者たちの話と一緒で、格差が広がってくる
と国内的な南北問題になってくるんです。中国などが排出権制限反対を言うのと同じで、
国内でも似たようなことが起こってくる。そういうところまで行きかねない状況だと思っ
ています。ですからぜひお願いしたいのは、「みどり」というものを中流以上の人たち
だけのものにして欲しくない、ということがあります。環境保護に限らず、いろいろな
社会運動がインテリさんの言葉になってしまって、本当に苦しんでいる人たちに言葉が
届かないということがあります。私たちの活動で、真っ先に話を聞かせてくれと言って
くるのは共産党ですね。生活保護の申請などに熱心に取り組んでいます。それから自民
党もけっこう動いています。10年前に新宿のホームレスの人たちの現場を見に来たのは、
保坂三蔵議員でした。川田さんに負けて落選しちゃいましたけど、その後も結構熱心に
動いていました。そういうところを当事者の人たちは見ていて、正直に言ってまだみど
りの人たちはまだ遠いなというのが今の現状です。今日、地方議員の人が集まっている
と聞いていますので、お願いしたいですが、窓口を作ればみんな来ると思います。だた、
ホームレスの問題をやっていると、票は減ってしまうかもしれません。生活保護なんて
不正受給じゃないのかとか、社会の差別意識を掘り起こしてしまうところがあるんです
ね。でもそれに対してもていねいに反論していくという作業を続けていく中で、本当の
つながりが出てくるだろうと思います。
■最後に、もやいということばは「舫」と書きますが、この言葉の由来は、水俣病の患
者の緒方正人さんにナマケモノクラブの辻信一さんが聞き書きをされた『常世の船を漕
ぎて』という本のなかで使われているのが由来です。漁師の方々が漁に出て嵐にあった
ときに、お互いにみどりの未来を守るために船を結びつける、その「舫い結び」という
結び方からとらせてもらって、つながりということを大事にしようということでこの言
葉を使っています。というのは私たちはよく言っているのですが、貧困問題というのは、
経済的な貧困と同時に、人間関係、つながりの貧困があると思います。昨年10月大阪の
個室ビデオ店で火災が起きましたが、隔離されて薄い壁でしきられてお互いが出会えな
い、同じ境遇にあるのかもしれないのに連帯が生まれない、そういう状況に置かれてい
る。そこからもう一度、市場原理主義がずたずたにしてしまった社会のつながりを作り
直そうという思いです。そういうつながりが感じられる社会をもう一度作りたい。他者
とのつながりだけでなく、自分とのつながり、自然とのつながりがあります。いま、私
たちのところに来る人たちは自分を責めています。それで病気になって働けなくなって
いる人たちもたくさにます。そうではなくて、外の価値観、ものさしで自分の価値を確
認できる居場所づくりにも力を入れていて、自分の「生」を無条件に肯定できるような
ら居場所をあちこちに作っていこうというのをやっています。もうひとつは自然のつな
がりも重要だと思っていまして、千葉に高校の同級生がやっている「モンスーンファー
ム」というところで半分農業、半分音楽をやっているやつがいるんですが、そこと交流
して元ホームレスの人たちと一緒に行って農業体験をやったり、持ちつきなどのイベン
トをやったりしています。こういうことを通して、私たちもみどりとの接点をつくって
いけると思っていますので、これからも議論を深めていきたいと思います。
◎平田仁子
■今日はどうもありがとうございました。最初はもやいさんともピースデポさんともジャ
ンルが違うので、どうかなあと思っていましたが、意外にも共鳴する部分があるんだと
感じていたところです。MAKE the RULE キャンペーンでも言っているように2010年に少
なくとも30%削減する法律を作ろうといったんですが、CO2だけが減ればいいと思って
いるわけではなくて、むしろCO2を減らしながら新しい社会を作っていこうと考えてお
り、その30%削減のシナリオを作るときにこれからの社会ビジョンを描く作業をしまし
た。そのときに私たちのキーワードは「優しさ」だったんですね。私も子育て世代です
から子どもを育てやすい優しい環境、他者にも優しい、高齢者にも優しいとか、地域で
おしゃべりができる関係、そんなかでCO2を削減しながらできる社会、産業ってなんだ
ろうということを考えました。 結局CO2を削減する社会をつくるということは、根底
から経済を作り直すということなので、新しい産業を作っていくということになります。
私たちの試算のなかで考えた新しい産業はあいにく土木系の産業ではなく、ストック
は充足するということで道路の補修などはあるのですが、大きな推進力、雇用を生み出
すのは自然エネルギー産業です。実際昨年の企業の決算では、海外では日本トップに匹
敵する企業が、自然エネルギー産業です。オバマのグリーンジョブもほとんどが自然エ
ネルギー産業にあります。この産業がこれからの大きな核になっていく可能性を持って
います。いま、CO2が減らないのは、自然エネルギーがものすごく冷遇されていく裏側
には、原発推進派にとってリスクになるのがわかっているのでなんとか押さえ込もうと
いう、非常に強い利権があります。結局CO2削減の壁は、エネルギーを使うことによっ
て儲かっている企業が儲け続けるための既存のシステムなんですよね。これに切り込ん
でいくためには政治の力しかない。なかなか内発的には出てこないので、MAKE the RUL
E キャンペーンになっているわけです。このキャンペーンを展開するなかで、日本にみ
どりの政党がない、他の先進国にはほとんど存在するのに、私たちが求めるビジョンを
コアにもつ政党がないということを常に感じています。ですからみどりの政党に大きな
力になって欲しいということではエールを送りたいと思うんですけれども、なにゆえこ
こまでみどりの政党が育っていかないのか!ということはみなさんにもお伺いしたい。
これだけ世の中がグリーンと言われているなかで、どうしてそういうことを軸におく政
党がマジョリティーになっていかないのかを過去を振り返りつつ、今年は新しいチャン
スだと思いますので、大きな支持が得られるように膨らんでいくように期待したいと思
います。MAKE the RULEも活用していただけたらと思いますし、応援もお願いしたいと
ころです。
古い方法ですが、署名を集めていますので、よろしくお願いします。それから地方議会
での意見書の採択も現在50近くあがっています。こういったものも政治を揺さぶる材料
にしていきたいと思いますので、お力添えをお願いします。
◎中村桂子
■平田さんもおっしゃっていたように根っこはつながっているという感じを強く受けま
した。地域から一人一人がやっていくという当たり前のことが唯一の正解で、これをやっ
ていくしかないと思います。とくに安全保障や防衛、外交問題は地域とすごくかけ離れ
ていることが多々あります。たとえば横須賀に原子力空母が来たときに市長が言うこと
には、安全保障は国の専管事項であると。この言い回しは横須賀だけではなく米軍再編
に関連したさまざまな地域で一つのお題目のように唱えられてきているんです。これに
対して人々がそうかこういうことはお上にまかせることなのか、と思ってしまいがちで
すが、横須賀がいい例ですけれども、まさに人々の明日の命がかかっている問題なんで
す。
私は心からのエールを送りたいと思っています。「みどり」はまさに「いのち」の話だ
と思います。「いのち」をどうやって守るのか。誰しも戦争なんてしたくない。自分の
家族も友達も好きな人も殺されるのはいやだという当たり前の感覚に、どう政治を結び
付けていくかという、単純なようで深いこの問題に地道に取り組んでいかなければなと
思います。日本には平和憲法がありますし、世界各国にみどりのグループはありますが、
私から
の希望を言わせてもらえば日本の財産を大切に使ってほしいと思います。日本の憲法と
みどりをどうつなげて人の心に訴えることができるかが、ひとつの切り口だと思います。
◎ 稲村和美
自己責任といわれて久しいですが、自己責任といわれるなら、未来への責任をもっと強
く感じてやっていきたいと思いますし、今日、みなさんからは「つながり」について話
が出されましたが、もやいのパンフレットにあるように「自立というのは一人でいきる
ことじゃない」という言葉に大変感銘を受けました。次の社会のキーワードは「信頼」
と議論し始めているのですが、そういったつながりが絶たれてしまっている、そこをど
う編みなおしていくのかを、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
「政治屋は次の選挙を考える。政治家は次の世代を考える」とよく言われます。私たち
は政治屋ではなく、政治家として、私たちの暮らしを息吹として感じながら、また引き
続きみなさんからも学ばせていただいて、
活動を続けていきたいと思います。
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